医学教育学という分野の目的が、最終的には医療者の能力向上を目的としていること、そして医療者の能力が医療の質に直結することを考えると、医学教育学は社会医学の一分野と考えることができます。
この分野の研究手法が量的研究および質的研究を主としており、文系の学問分野に類似していることもそれを支持するでしょう。
ただ衛生学・公衆衛生学を主流とする社会医学よりも、さらに文系寄りの学問と言えるかもしれません。
認識論としては構成主義的な立場に立つことも多く、唯一解はない、という特徴を持つことがその根拠です。
医学教育学には高等教育学の一分野という側面もあります。研究分野でしばしば引用される理論やモデルが教育学のそれらであることは一つの証左です。
Faculty Developmentは医学教育の専門家の重要な実務の一つですが、高等教育を専門とする教員と協働することはしばしば有益な結果をもたらすように思います。
ただ医学教育の特徴は、学部生の教育(卒前教育)だけでなく、卒後研修(初期臨床研修医・専攻医の教育)および生涯教育までをそのターゲットとしていることです。社会教育の領域とも共通点があるかもしれません。
AIの発展は医療にも大きな影響を与えています。ヘルスケアは基本的に人を介して行われることがほとんどですので、影響は少ないかもしれませんが、その発展に伴って医師に求められる役割が変化してくるということについては、論を待たないとはいえそうです。
AI時代の医師に求められる能力の一つが、文脈を読み解く力だと考えています。患者さんがどのような人生を歩んできて、どのようなことを医療に期待しているのか、患者さんの表情や言葉遣いからそれらを丁寧に読み解いて、それらと医学的な適応とを擦り合わせながら、患者さんとともに意思決定を行なっていくことが、これからの医療にはより求められると考えています。そのような時代には、文系の素養がより求められるようになるのではないでしょうか。
のちに述べる「医学部の中の文系」の分野として、医学教育学が社会にユニークな貢献をしていければと考えています。